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「空想の友達」と子どもの社会性

想像上の友人、架空の友達、イマジナリーコンパニオン、イマジナリープレイメイト、イマジナリーフレンド(IF)……さまざまな呼ばれ方をする、この「空想の友達」の存在は、日本ではしばしば病的なものと捉えられたり、否定的なイメージを持って見られてしまうことがあります。

ですが、子どもが「空想の友達」を得ることは病的なものではなく、むしろ、子どもが社会的に成長し、発達していくうえでは大変良い効果をもたらすとも言われているのです。

空想の友達とは

子どもは時として、空想により生み出した、目には見えない架空の友人を有し、彼らと対話をしたり、遊んだりして人間関係を築いていくことがあります。この架空の友人のことを、イマジナリーフレンド、つまり「空想の友達」と呼びます。

幼少期に持つ「空想の友達」は病的なものとは異なり、健やかな成長の証のひとつです。

『乳幼児のこころ 子育ち・子育ての発達心理学』(有斐閣アルマ 遠藤利彦・佐久間路子・徳田治子・野田淳子 著)の中では、日本においての調査で、こうした「空想の友達」を持っている子どもは約10%と、欧米での20%~30%に比べて少なく、その差の背景には「添い寝」の文化が関係していると考えられている点についての紹介があります。

同書での説明によれば、あまり添い寝をしない欧米の子どもは移行対象を持つことが日本よりも多く、そしてこの移行対象を手放す際に代償として、「空想の友達」をもつとも言われているため、日本よりも欧米のほうが「空想の友達」の出現率が高くなるという解釈もあるようです。

移行対象は、子どもが特別に愛着を持ち、肌身離さず持つことで安心感を得るようなもののことです。移行対象を持つことは、『大人の共感的な言葉が、「感情の社会化」による子どもの感情制御力を養う』の記事でも触れたとおり、何か問題が起きた時の情動焦点型コーピングとして、子どもが自ら、自分自身の感情へ対処をしようとしていることの表れでもあります。ですので、移行対象を持つことは、子どもの自律性の発達という面では良い経験であるとも言われています。

しばしば移行対象の延長線上に出現するとされる「空想の友達」も、この、移行対象の持つポジティブな側面を有していると考えられます。子どもが運動能力・認知能力・言語能力などの発達により、問題解決のための行動を拡大していくという観点から見れば、「空想の友達」の出現も、子どもが自ら行う問題解決のための高度な対処法であると考えることが出来るでしょう。

しかし、高度な対処法であるといえる「空想の友達」は、自律的な感情コントロールだけでなく、他者との関わり方、すなわち社会性を育むことができるというポジティブな側面をも有しているのです。

プライベート・スピーチと問題解決能力

ここでいうプライベートスピーチとは、子どもが一人でする言葉遊びであり、ヴィゴツキー理論における、

「内言の機能と同系のもの」であり、「知的適応、自覚、困難や障害の克服、判断や思考の目的に奉仕する」あるいは「問題解決のプランを形成する」機能をもつもので(省略)「子どもの思考に奉仕する自分のための言葉」であり、「内現に向かって発達する」

ヴィゴツキー理論に基づくプライベートスピーチについての一考察

という意味での「自己中心的ことば」のことです。

このプライベートスピーチに関する研究によれば、

プライベートスピーチには単なる言葉遊びの他にも想像、リハーサル、応答、自己抑制などの役割があることが分かっており、また、プライベートスピーチの頻度と問題解決能力には相関関係があることが明らかにされています。

Gigazine 子どもが創り出す「架空の友達」の存在は問題解決能力を高めるのに有効であることが判明

また、「空想の友達」を持つ子どものほうが、このプライベートスピーチをよくするということも研究で明らかになっているそうです。

これは言い換えれば、「空想の友達」は想像、リハーサル、応答、自己抑制などの役割に加え、問題解決能力を高めるための足がかりにもなり得るということになります。

しかし、想像や自己抑制に関しては説明するまでもないにせよ、何故、「空想の友達」やプライベートスピーチが、問題解決能力に繋がるのでしょうか。

その鍵を知るには、実際に、「空想の友達」を体感するという方法が最もわかりやすいのではないかと思われます。「空想の友達」そのものや、それをモチーフにしたキャラクターの登場する映画、小説、アニメ、絵本などといった物語作品は、国内外を問わず、数多く存在していますので、そういった作品を通し、「空想の友達」が存在する世界に少しだけ触れてみましょう。

『チャーリーとローラ』にみる問題解決

英国の、ローレン・チャイルド原作の絵本、またそれをベースとしたアニメに『チャーリーとローラ』という作品があります。
現在もディズニーチャンネルなどで放映がされている人気タイトルですので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

チャーリーとローラチャーリーとローラ

NHK BS2

この作品の主人公は、7歳の兄チャーリーと、4歳の妹ローラです。
創造力豊かなチャーリーは、風変わりだけれども面白いローラが起こす問題やわがままを、ユーモアや優しさで解決していきます。

さて、このローラにはソレン・ロレンセンという、部屋に誰もいない時にだけ現れる、ローラにだけ交信ができる空想の友達がいます。彼は、時にはローラのイタズラを止めようとしたり、時にはイタズラを推奨したり、本物の友達と全く同じようにローラと接し、ローラもまた、本物の友達として彼と接するのです。ローラはこのように、一人でいながらにして、ソレンとの「対話」という複雑な思考により目の前の問題にあたっていきます

ソレンは兄のチャーリーととても良く似た風貌をしており、兄妹の間にある信頼感が窺がえます。ソレンはローラから生まれた存在であるので、常にローラの感情を肯定する発言をとるのかと思いきや、そうではありません。ソレンは、兄チャーリーのようなしっかりとした口調でローラを諌めることもあるのです。

ソレンのように、「空想の友達」は都合の良いだけの存在ではなく、子どもにとっては「他者」としての役割を持っています。他者との対話、そして自分自身との対話、これらは大人社会において問題解決を試みる際にも大変重要な能力ですが、「空想の友達」はそれを同時に経験し、訓練することができる存在でもあるというわけです。

日本の作品では、スタジオジブリ 米林宏昌監督作品『思い出のマーニー』が記憶に新しいのではないでしょうか。

思い出のマーニー思い出のマーニー

米林宏昌 監督作品

この作品では、「空想の友達」が実在しているような、時代を越えたミステリアスでファンタジックな要素で優しい世界観が描かれています。

他にも、「空想の友達」を題材、モチーフにした作品はたくさんあります。

イマジナリーフレンドを扱っている作品イマジナリーフレンドを扱っている作品

いつも空が見えるから

ここで紹介されている作品に留まらず、さまざまな作品の中に「空想の友達」や、それに近い存在が登場しています。

彼らは、「空想の友達」を持たなかった、もしくは忘れてしまった私たちの生活の中にも、形を変えて自然と寄り添っている存在なのです。

子どものアニミズム

ヒトの2~4歳の幼児期には、まわりのものがすべて自分と同じように感じ、意識をもち、意思をもっていると考える時期があり、児童心理学ではこのことをアニミズムと呼んでいます。

るいネット

児童心理学のアニミズムは徐々に発達していき、最終的には、「意識は動物に局限される」という認知にまで至ります。ですが、認知は発達していっても、子どもの感覚の中にはアニミズムの精神が強く残っている場合があるというのは想像に難くありません。

「おもちゃを乱暴に扱ったら、おもちゃが悲しいよ、泣いているよ」などと、物に意識があるという形で思いやりを教える養育者は少なくはないのではないでしょうか。絵本などでも、おもちゃや食べ物、乗り物などが意識を持って語りかけてくるといった内容のものは、ごく自然と目にします。

それらは実際に意識を持っていない、と頭でわかっていても、子どもはより強く、全ての物に意識の気配を感じやすいと言えるでしょう。

「空想の友達」は、実際に存在している「物」ではありませんが、子どもが己の中に生みだしたひとつの「存在」に対し、アニミズム的な精神によって「意識」を感じることは難しいものではないのかもしれません。「意識を持った空想の友達」は、意識を持っているのだから動物である、という、アニミズムの発達の逆説的な間隔が、「空想の友達」の存在をより濃く、強固にしているといったことも考えられるのではないでしょうか。

自己と客観の区別が曖昧な幼児期においては、自己の一部は他者になりやすい部分があります。

もうひとりの自分と他者

「空想の友達」は自分自身であり、他者でもあります。この友人を持つということは、自分以外の誰かの視点で自分自身と対話することになるということです。つまり、「空想の友達」と対話をすればするほど、他者から見た自分を客観的に考える力や、他者の心・視点を深く想像し、理解する力が養われていくのです。

「空想の友達」と子ども自身の関係は、現実の他者との関係と変わりはありません。ですが、自分自身から生み出した「空想の友達」は、自分の一番ともいえる理解者であり、そして「空想の友達」の一番の理解者は自分自身です。人間関係の構築を経験するという意味で、これほど信頼のおける相手もいないのではないでしょうか。

人間関係や、人間関係を構築する上での客観性は、理解するためにはとても複雑な思考能力を要します。これが社会性という面で、いかに大切な能力であるかは周知のことであるでしょう。「空想の友達」のもたらす複雑な思考能力は、実際の他者と関わるときよりも、更に深く、複雑なものである場合もあり得ます。

子どもに、無理矢理「空想の友達」を持たせる必要はありませんが、子どもが自ら「空想の友達」を作り出し、その相手と話をしていた場合には、肯定的な気持ちを思い出し見守ってあげましょう。時には、その友達について訊ねてあげるのも良いかもしれません。子どもが一人で何か見えないものと対話をしている姿を見かけても、決して気味悪がったりせずに、成長のひとつの証であるとして、温かく受け入れてあげるという姿勢が大切です。

この記事が、多くの文学作品においてモチーフとなり、私たちの潜在意識の中にはとても身近に存在し、広く認知されているはずの「空想の友達」――その不思議で優しい存在を、いま一度、見つめ直すという機会をも、子どもたちは与えてくれているのではないでしょうか。

『乳幼児のこころ 子育ち・子育ての発達心理学』『乳幼児のこころ 子育ち・子育ての発達心理学』

(有斐閣アルマ 遠藤利彦・佐久間路子・徳田治子・野田淳子 著)

ABOUT THE AUTHOR

土下すわる
フリーライター。1985年生まれ。記事:海外デザインの紹介記事など。 小説:『ぬいぐるみの父』幻創文庫(PN藤村悠生) PBW:『三千界のアバター』(株)フロンティアワークス(GM藤村悠生)
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